「やってみないと分からない」となった時にどう動くのか、今やるべき事業をどう見極めるのか。若い経営者を見て感じる悔しさや「最後に勝てばいい」と考える成長への向き合い方。
さらに困窮している方を理解するために普段から意識していることまで、社員から届いた4つの質問に答えていきます。
普段どんなふうに考え、事業の判断をしているのかをお伝えします。

質問① 「やってみないと分からない」となった時、どう判断する?

「『やってみないと分からない』みたいな壁に当たることはありますでしょうか? また、その時にどのような思考回路で意思決定されているのか、お伺いしたいです」

「やってみないと分からない」みたいな壁は、いっぱいありますね。
というか「やってみないと分からないな」というところまで来たら、
思考のゴールのような気がします。

やること自体が決まっていない状態から、
「やってみないと分からない」に行き着いたら、
要はやることが決まるじゃないですか。

だから、むしろその前の方が大変なんじゃないですかね。
「やってみないと分からない」の前の思考が一生終わらない時があって、
考えることが多すぎて一生考えられちゃうというか、
あれもこれも出てくるみたいな。

1週間が終わって、週報に今週の成果や意思決定を書くんですけど、
そういう状態の時は、
「何も成果がないし、何も意思決定できていない」みたいなことがあります。
やっぱり行動に移っていないから心配になりますよね。

だから「やってみないと分からないな」になったら、ちょっと嬉しいです。

僕は「小さく早く失敗する」というのをめちゃくちゃ意識しているんですよ。

自分が思考する時に一番強く意識していることで、
小さく早く試せる状態に持っていけたら「やった!」と思えるんです。

ただ、何でもかんでも当てずっぽうに、
小さく早くやるのも違うかなと思っています。
ある程度、全体感を考えたり、まだ考えられるところは考えていくんですけど、
考えても意味がないことってやっぱりあって。

例えば「お客様がこういうふうに思うだろうな」みたいなことは、
あまり考えても意味がない。
こう思うだろうなと思っているんだったら試してみて、
自分の思っているようになるのか、全然思ったようにならなかったのかを見る。
人の感情とかは、一回試さないといけないなと思っています。

一方で、コンセプトや戦略は、考えれば考えるほどいろいろな観点が出てきます。
だから、そういう上流の部分は、ちゃんと考えてから進みたいというのもあります。
「あれもこれも考えなきゃいけないな」と、
思考漏れがあるような感覚になるんですよね。

だから、「ここから先はやってみないと分からない」ところまで来たら、
そこまで考え抜けたということだと思います。
僕にとっては壁というより、ちょっと幸せな状態ですね。

その時は、まずやってみる。
そこでどういう反応が返ってくるかを見て、次の意思決定をするという感じですね。

全部が全部、きっちりかっちり考えるんじゃなくて、
何個か想定されるパターンがあるなら、
うまくいっているパターンだったらそのままでいいし、
うまくいっていないパターンが来たら「これは全部やり直さなきゃな」と考える。
そういうふうに、試した結果を見ながら次を考えています。

質問② 今やるべき事業・今はやらなくていい事業をどう決める?

「経営者としての感覚で、『これはやるべき事業』『今はやらなくていい事業』という線引きがありましたら、どのように意思決定されているのか気になりました」

一番考えているのは、効果とコストのマトリックスですね。
コストというのは、お金もそうだし、時間もそうです。

コストを横軸に引いて、縦軸に効果がありそうかどうかを引く。
その中で、コストがあまりかからなくて、効果がありそうなものからやります。
「今やるべき」というのは、
すぐ始められて、小さなお金で試せて、効果がありそうなものですね。

分かりやすい例でいうと、値下げですね。
値下げって、意思決定したらすぐ下げられる。
例えばWebだったら、明日から価格を下げることもできる。
だから、ちょっと下げた時にどういう挙動を示すのか、
まず試してみるというのはありますよね。

例えば今、10個ぐらいやりたいことがある時に、
コストと効果をマトリックスに当てながら、
「効果がありそうで、コストがあまりかからなさそうなのはこれっぽいよな」
というところから、深く考えるようにしています。

逆に、過去にやらなかったものでいうと、出店を増やすことですね。
効果はありそうですけど、すごいコストがかかりそうじゃないですか。
お金よりも、人の方ですよね。

「出店をいっぱい増やすのは大変だよな」
「どうやってマネジメントするのかな」
とか、ケアしなきゃいけないこともいっぱいある。
そういうものは、当時はやれなかったですね。

でも、今の体力だったらやれると思います。
やれるかどうかは、その時の会社の状態によって変わるということですね。
会社が成長してくると、今までできなかったものができるようになったり、
逆に、今まで良かったものが、成長したからやっちゃいけなくなったり。
そういうこともありますよね。

「意味があるか」「僕らがやる必要があるのか」も考えます。

僕は物語とかを結構大事にしたいなと思っているので、
やれるかどうかじゃなくて、やるべきかどうかですね。

もちろん、お客様のためになるか、お客様に価値があるかどうかもすごく考えます。

質問③ 下からの突き上げに、危機感を感じることはある?

「高橋さんは、自分よりレベルの高い存在を見て『超えてやろう』という反骨心が成長の動機となっているかと思いますが、逆に下からの突き上げの危機感から、気持ちが発奮することはありますか?」

「後輩が先輩を超えることが、先輩に教えてもらった感謝を最大限表現することだ」
という話を朝礼でもしました。
「結果で表現するのは二流、超越で表現するのが一流だ」
みたいなのが、アーラリンクの文化です。

僕もやっぱり、下からの突き上げの危機感は感じますよ。
ただ、社員ではなく、別の経営者ですね。

年下の経営者とか、自分よりも経営者としての期間が浅いのに、
いい事業をしていたり、利益が出ているのを見ると「うわっ」となります。

例えば、タイミーの小川さんですね。
20代で営業利益が100億弱くらい出ているとか、
タイミーというブランドもそうですし「とんでもないな」と思います。

すごく悔しいです。
でも、とはいえ人生はまだ終わっていないじゃないですか。

成長には「早い成長」「高い成長」「長い成長」の3つがあると思っているんですよ。

その中で、一番目指しているのは「長い成長」なんです。

長くずっと成長し続ける。
長距離マラソンを走るような気持ちで成長していきたいと思っています。

若い人で「早く成長しているな」「急成長しているな」という人を見ると、
ちょっと焦ったり「やばいな」と思ったりもします。
でも、僕が目指しているのは長い成長なので、
「今は負けているかもしれないけど、死ぬまでにどこかで勝とう」
みたいな気持ちは持っています。

ただ、数字だけではなくて、事業のシナリオがすごくきれいだな、
物語がきれいだなという人を見ると「これは悔しいな」と思います。
だから、勝負を投げないというのは、すごく意識しています。

社員からの突き上げはまだないですけど、抜かれたらうれしいなと思います。

今は結構、パワーマネジメントをキレキレでやっていますけど、
いずれ穏やかなおじいさんみたいな経営をする日が来るんじゃないかなと思っています。
「俺が責任を取るからいいよ。好きにやってくれ」とだけ言っているような。

そうなってくると、強い人がたくさんいる状態ですよね。
そういう経営には憧れがありますし、きっとそうなるんじゃないかなという気はします。

質問④ 生活困窮者に密着したことはある?

「社会課題から事業の着想を得る上で、社会課題の渦中にいる生活者の解像度が鍵になっていると思いました。高橋さんは、これまで生活に困窮されている方の生活に密着された経験はありますか?」

ないですね。

僕の中で「密着」というと、
家までお邪魔して、2〜3日、寝食を共にするみたいな感じかなと思っています。

でも、昔、お金がすごくなかったとか、そういう経験はしています。
あと、孤独とか孤立って、別に今も感じることはあります。
今の立場でも、孤独なのか孤高なのかはちょっと分からないですけど、
「一人」というところでいうと似ているじゃないですか。

あとは、具合が悪いから何かができないとか。
腰が痛いとか膝が痛いとか、そういう気持ちは分かるじゃないですか。

そういう、自分の身に降りかかるちょっとマイナスな感情の時に、
「僕はこういうことを考えるよな」というのを、ストックしておくようにしています。
自分というN1が、その時に何を感じたのかを大事にしているんですよね。

意外と思われるかもしれないですけど、僕はあまり現金を持たないんですよ。
家に全部入れちゃうので、引き落としができなくなりそうとか、普通にあるんです。

例えば、クレジットカードの請求が来て、
「やべ、今のお金より落ちる金額の方が高いぞ」とか。
自分で自由に使えるところにお金があるわけではないので、
嫁さんに渡しているお金を「引き落としできないから返して」と言ったら、
どえらいことになるじゃないですか。

そうやって人から詰められるのも、ネガティブな経験じゃないですか。
「人から詰められると、こういう気持ちになるんだな」とか、
「お金を借りなきゃいけない時ってこういう気持ちなんだな」
「お金を貸してと言う前ってこういう気持ちなんだな」とか。
残高を見て「こんなに落ちるの?」と気づいた時に焦る気持ちとか。

それは今もリアルタイムで結構あるので、
その時に感じる嫌な感情の正体とか、
その時に自分が何を思ったかというのは、
すごく大切なものとして、ありありと描くようにしています。

逆に「こういう気持ちにならずに済んだらいいな」
「この問題が解消したらうれしいな」とも思うので、
そういうものも一方ではストックしておくという感じです。

もちろん密着も大事なんですけど、
自分の体験の方がよっぽど強いというのはありますね。

意思決定の裏側にある「システム1」を意識しています。

行動経済学に「システム1、システム2」という話があるんですけど、
システム1で我々は生きていると。
システム1というのは、いちいち考えないでパッとリアクションして生活したり、
意思決定したりすること。
システム2というのは、理由をつけたり、考えて説明したりすることです。

例えば僕が「二宮さん、あの時どうしてこれを買ったんですか?」と聞いたら、
説明をするじゃないですか。
その説明は多分システム2なんです。

でも、本当に買うと決めた時は、多分システム1で判断している。
それを後からシステム2で説明しようとすると、
そこで少しずれが生まれるんですよね。
だから、その時の感覚を大事にしています。

例えば、今日僕も「濃い綾鷹」を手元に持っているんですけど、
なんでこれを買ったかというと、取りやすい位置にあったから買ったんですよ。

持った瞬間に「なんで俺、この綾鷹を持ったんだろう。
あ、ちょうど手に取りやすいところにあったからだ」と気づいた。
西友で買ったんですけど、棚の陳列ポジションって超大事だなと。
これ、センターにあったんですよ。
だから「棚のセンターを取るのって大事だよな」とか、いちいち考えているんです。

部下にもよく言うんですけど、マーケティングとかを志すのであれば、
「物を買う時に適当に買うんじゃない」と。
全ての意思決定について、理由を説明できるようにしなさいと言っています。

システム1でやったことに気づいて、
「なんでそれをやったのか」ということを自覚しておく。
それは、自分がマーケティングを仕掛ける側になった時に絶対に役に立つからです。

自分の体験は、言語化してストックするようにしています。

前のラジオで、言語化をどうやっているのかという話をした時に、
「これを友達に説明するつもりで喋る」という話をしたと思うんです。

例えば、おいしいご飯を食べた時に「おいしかったな」で終わらせずに、
「これを友達に伝えるとしたら、何て喋るかな」と頭の中で考える。
それをSNSで投稿するとかでもいいと思うんですけど、
そうやって自分の体験を言葉にすることを習慣にしておくと、
言語化できるようになります。

それと同じように、生活者として自分が感じたことを大事にしておくと、
マーケティングや商品開発をする時に、その経験が生きてくると思っています。

お客様の言葉も、そのまま鵜呑みにはしません。

お客様への密着もいいんですけど、
「お客様が喋っていることの、本当の意味ってこういうことなんだろうな」と考える。
システム2で喋っているんだけど、その裏側にあるシステム1を見るように、
ずっと頭を回しているというのはありますね。

自分も「説明して」と言われたら説明をしますけど、
実際の選択は、説明できないところで行われていることもあります。

だから、説明は聞きつつも、
「これは表向きの理由で、本当はこうなんじゃないかな」
という仮説を持って話を聞いています。

昨日も、歯医者で親知らずを抜いたんですよ。
その後、ロキソニンをもらうためにこの辺の薬局を聞いて地図をもらいました。
4か所ぐらいあって「どこに行こうかな」と思って外に出たら、
目の前に看板が入ってきたんです。

距離的には左に曲がって行った薬局の方が近いんですけど、
ちょっと遠くても、視界に入った方へ行ったんですよね。

そこで「自分は近い方よりも、視界に入った方に安心感を感じて行ったんだな」と考えた。
信号を渡らなきゃいけないのに、そっちへ行ったんです。

そういうことも、
「4つ薬局がある中で、自分はなぜこれを選んだのか」と、いちいち考えています。
一回考えたら、頭の引き出しのどこかに入っていくんですよね。

だから、事業を考える人とか、マーケティングをする人とか、物事を企画する人は、
自分が意思決定した時の背景を覚えておくことをおすすめします。

話し手

高橋 翼

株式会社アーラリンク代表取締役社長

2011年早稲田大学社会科学部卒業。通信事業の将来性と貧困救済の必要性を感じ2013年にアーラリンクを創業。