人事制度を変える|リーダーは価値観のアンバサダー
「リーダーは価値観のアンバサダーだと思っています」
今、アーラリンクの人事制度を大きく変えようとしています。きっかけは“リーダー像”に対するズレ。
リーダーは業務ができること以上に、会社の価値観を伝え、体現し、影響を与えられる人であるべきです。
社員一人ひとりが自分の言葉で語れる組織づくり。その第一歩が、いま動き出しました。
- 目次
- なぜ人事制度を変えるのか?
- 自分から語りすぎない理由
- リーダー制度の矛盾と限界
- キャリア欲と報酬のゆがみ
- リーダーとSVの違い
- アンバサダー制度を始めます
- プレゼン方式から承認へ
- 評価されるのは“日常の信頼”
- 語ることで価値観は進化する
- “影響力”を可視化する仕組み
- アンバサダーは任期制で回す
- 然発生ではなく意図して設計する
なぜ人事制度を変えるのか?
今回は人事制度の見直しについて、なぜ今なのか、どう変えるのかということを僕なりに話していきたいと思ってます。
制度の話って堅い印象がありますけど、単にルールを変えるってことじゃないんです。報酬や評価制度も含めて、組織の根本にある考え方を見直そうとしています。正直、制度そのものはまだ完成していません。
でも、根底にある思想や方向性はもう定まっていて、それを今のうちからちゃんと伝えておきたいと思ってます。
完成してから「こうでした」って言うよりも、考えながら共有していくことで、制度そのものにも魂が宿る。だから、今話すことに意味があると感じています。
自分から語りすぎない理由
最近、僕が会社の中で「こうしたい」とか「これをやってくれ」みたいなことをあまり言わなくなったのには理由があります。
経営者として全部を決めてしまうと、幹部やリーダー候補が育たなくなってしまうからです。社員の関が今、前に出て話してくれているのもその一環で、意図的に役割を移しています。
それと同時に、人事制度って本来は“社員のための制度”であるべきだと思うんですよね。
だから、社員が自分たちで考えて作っていく方が納得感もあるし、本質的だと思ってます。今は関が手を動かして制度設計を進めてくれているけど、その裏側では僕と幹部候補たちで思想の部分を詰めている。だからこそ、全員にはまだ言えていないことも、ここでしっかり言葉に残しておきたいと思ったんです。
リーダー制度の矛盾と限界
正直に言うと、リーダー制度がうまく機能していなかったと感じています。
今の仕組みでは、2週間に1回、立候補者がプレゼンする形になっているんですけど、まずこの“立候補制”というところに問題があると思っていて。自己肯定感が高くないと手を挙げられないんですよ。
でも、本当にリーダーにふさわしい人って、むしろ「自分なんてまだまだ…」って思ってるような、謙虚で誠実な人だったりする。そういう人が埋もれてしまう制度になってしまっていることが、一番もったいないと思ってます。
立候補しないと評価されない制度だと、本質的にリーダーに必要な素質を持った人が拾えない。だから今、大きく仕組みそのものを変えようとしているんです。
キャリア欲と報酬のゆがみ
もうひとつ感じている課題は、リーダーという役職になると報酬や権限が手に入るっていう制度の構造です。これって、キャリア欲が強い人ほど手を挙げやすくなるんですよね。
でも僕がリーダーに求めているのは、「人柄」や「誠実さ」、そして「価値観を体現できること」です。やりたいという意思や努力はもちろん素晴らしいけど、それだけじゃなくて、その人がどんな影響を周囲に与えているかが大事。
今の制度は、「やりたい」と言える人が前に出て、それ以外の人は評価されにくい構造になってしまっている。本来、リーダーというのは名乗るものじゃなくて、周囲から「この人についていきたい」と思われるような人。
そういう人が浮かび上がるような制度にしていきたいんです。
リーダーとSVの違い
社内では「リーダー=SV(スーパーバイザー)」と捉えられてしまっているところがあるけど、僕の中ではまったく別物です。
SVっていうのは、業務のプロフェッショナル。作業を指導したり、現場を効率的に回すことが役割です。
でも僕が求める“リーダー”っていうのは、もっと本質的に組織を導いていく存在。たとえば、アーラリンクには「全社心得」という行動規範があって、それを体現できるかどうかが重要だと思ってます。
リーダーは自分がまずその価値観を行動で示して、それをチームに伝えていく役割を担う人。だから業務ができるかどうかよりも、価値観を浸透させられるかどうかが大事なんです。SVがそのままリーダーと見なされる構造では、本当に大事にしているものが組織から抜け落ちてしまう危険があると思っています。
アンバサダー制度を始めます
こうした背景を踏まえて、僕たちは新たに「価値観アンバサダー制度」を始めようとしています。
これはSVとリーダーをはっきり分けて、業務の達人と組織文化の担い手を別の役割として位置づける仕組みです。SVはこれまで通り、現場の指導や管理に強みを発揮してもらう。
その一方で、価値観を広げる人としてアンバサダーを配置していく。今までは、僕が社員一人ひとりに価値観を語ってきたけれど、それには限界があります。だからこそ、今後はアンバサダーが小さな単位で価値観を伝える役割を担っていく形にします。
まず、ファーストアンバサダーの関に、90分ほど価値観について語ってもらいました。その姿を他のメンバーが見て、次の担い手が生まれるような流れをつくっていきたいと思ってます。
プレゼン方式から承認へ
今まではリーダーになるには立候補が必要で、そこからプレゼンをしてアピールする形式だったんですが、これには限界がありました。
そもそも「自分にはできないかも」って思ってる人ほど、実は素敵な価値観を持っていたり、日々まじめに取り組んでいたりする。そういう人が表に出られないのは本当にもったいない。だから今後は、他薦・自薦どちらもOKにして「あなたならできるよ」と周囲から背中を押してもらう形に変えようとしています。
その最初のステップが、価値観を整理するワークショップ。自分がどう日々を過ごしてるかを言語化して、それを小さな場で発表し、フィードバックを受ける。その上で、全社員の前で「私はこういう気持ちで働いてます」と語ってもらい、社員全員で信任・不信任を取るという流れです。
評価されるのは“日常の信頼”
アンバサダー制度で一番大事にしたいのは、“表面的な振る舞い”じゃなく、“日常の信頼”です。
たとえば、普段はいいことを言っているように見えても、実際には周囲に対して誠実でなかったり、価値観を軽視していたりする人は、信任が集まらないと思っています。
逆に、口数は少なくても日々の行動で信頼を積み重ねている人。そういう人が評価される仕組みにしたいんです。正直者が報われる社会って、言うのは簡単だけど制度として設計するのは難しい。でも、だからこそ僕たちはそれを仕組みとして設計したい。
アンバサダーは、信頼の上に立って価値観を語る存在です。派手なスピーチができなくてもいい、実践がある人にこそ語ってほしい。そしてそれがまた、周りの人の心に届く流れを作っていきたいと思ってます。
語ることで価値観は進化する
アンバサダーが価値観を語ることで、単に伝えるだけじゃなくて、自分自身がその価値観を深く理解したり、新しい発見があったりするんですよね。
「そもそもこの言葉って何のためにあるんだっけ?」「こう言った方がもっと伝わるかも」っていう疑問や気づきが出てくる。
それがすごく重要で、語ることで価値観はアップデートされていくんです。これは宗教の宣教師が教義を広める中で伝え方を洗練していくのと少し似ていて、自分が語るからこそ自分自身が一番学べる。
僕は初期のV1設計は作ったけど、それをずっと固定するつもりはなくて、時代や組織のフェーズに応じてどんどん言葉や運用方法は最適化していってほしいと思ってます。そうやって価値観が“生きたもの”として育っていくのが理想です。
“影響力”を可視化する仕組み
このアンバサダー制度って、会社の中で本当の意味で「影響力を持っている人」が誰なのかを見える化する仕組みなんです。
いままでは、業務ができる人が自然とリーダーと呼ばれてきたけど、それだけじゃ不十分なんですよね。本当のリーダーって、価値観を体現して、それによって周囲の行動や考え方を変えていける人だと思ってます。
だからこそ、アンバサダーには報酬もつけていくつもりです。今までリーダーと呼ばれていた人は、SVとして今後も活躍してもらう。でも、価値観を軸に組織を導く人は「アンバサダー」として、役割も報酬も明確に区切っていく。
評価の軸が「業務の成果」だけでなく「文化への貢献」にも広がっていくことで、より良い組織に進化していけると信じてます。
アンバサダーは任期制で回す
アンバサダー制度は、いったん選ばれたら終わりじゃなくて、半年に1回くらいのサイクルで定期的に更新していこうと思ってます。
これは単なる制度の刷新という意味だけじゃなくて、常に組織の中に新しい空気が流れるようにしたいからです。制度が固定されてしまうと、やっぱりどこかで形骸化してしまうし、新しい視点が入りにくくなる。加えて、アンバサダーの人数に上限を設けることも考えています。
たとえば社員の10〜20%しかなれないと決まっていれば「あそこに入りたい」っていう健全な緊張感やモチベーションが生まれるし、選ばれることの価値も高まる。そうやってリーダー像や文化の担い手が“回転”していくことで、組織そのものも進化し続ける仕組みになると考えています。
然発生ではなく意図して設計する
僕たちは組織文化を「自然に育つもの」とは考えていません。文化って、放っておくとどんどん薄まっていくんですよね。
だからこそ意図して、設計して、制度に落とし込む必要があると思ってます。アーラリンクには「全社心得」という行動指針があって、それを実践する“ハウ”もあります。ただ、制度を作って終わりじゃなくて、それを誰が伝えるのか、どう伝えるのかまでを設計しなければ、文化にはならない。
僕たちが参考にしてるのは宗教のような“思想の伝達”の在り方です。人間がなぜここまで繁栄できたのか、共通の価値観を信じたからです。
今、社員数も100人近くなって、いわゆるダンバー数の壁に差し掛かってきていて。だからこそ、そういう文化の土台をしっかり作っていかないと、僕が望んでるような成長は難しいなって思ってるんですよね。
今回、こうやって人事制度を変えていくって話の第1回目だったんですけど、実はこれまだシリーズの中の1話目なんです。これからあと3話か4話くらい続けて話していきます。ということで、また来週以降も引き続きよろしくお願いします。ありがとうございました!

話し手
高橋 翼
株式会社アーラリンク代表取締役社長
2011年早稲田大学社会科学部卒業。通信事業の将来性と貧困救済の必要性を感じ2013年にアーラリンクを創業。